時効
〜流氷に消えた最愛の逃亡者〜


天野さんと一緒におしごとをされた方々: 村田忍監督 (『本気!』シリーズ)
吉行和子さん (『名探偵保健室のオバさん』)

村田忍監督の作品『時効〜流氷に消えた最愛の逃亡者〜』(【朝日放送公式:ドラマスペシャル「時効〜流氷に消えた最愛の逃亡者〜」】)観ました。
ほんとうに重厚な、すばらしい作品でした!

 物語の前半は、流氷で閉ざされた海のように、冷たさにじっと耐えるような人々の模様が語られます。
15年前に殺人の罪を犯し、北海道の流氷の来る町で漁を手伝いながら、じっと潜伏している主人公・山崎恭一(Cast:渡瀬恒彦さん)。
殺人犯の娘としてつらい思いを重ね、15年間一度も連絡をよこさず、母の葬式にさえ姿をあらわさなかった父に納得がいかない、恭一の娘・希(Cast:岡本綾さん)。
希は、看護婦として勤務する病院の医師で跡取りの五代修二(Cast:金子賢さん)と愛し合っているのに、殺人犯の娘が次期院長を誘惑しているとの中傷ビラがまかれ、院長で修二の父親・久明(Cast:清水省吾さん)は希を別の病院に移そうとしている。
継続捜査班の一員として恭一を追い、恭一の家族をずっとマークする所轄の刑事・宮嶋(Cast:藤竜也さん)までもが、かつて政治家の息子を逮捕して捜査の第一線から外されたという経緯をもつ。どこもかしこも、救いようのなく閉塞感のある状況。

それが、後半になると物語りはぐぐっ動き出し、思ってもみなかった展開が!
 警察がもう一度恭一の殺人の動機を調べてみると、恭一が雑誌記者だった被害者を殺したのは、小学校にあがるまで重い腎臓病で苦しんでいた希に五代久明院長が当時禁止されていた脳死による腎臓移植を行ったことをネタに、湯浅が久明を恐喝していたため、ということがわかり。
 前半では世間体を考えて修二の結婚に反対している冷たい人かと思えた久明は、恭一が“神様だとおもった”ような人で、しかも、手術の前日交通事故で脳死状態に陥った息子の一部に、希の中で生きていてほしいという願いをもって息子の腎臓を希に移植したという思いを抱えた人だったという意外性が、厚い氷にひびが入る瞬間のよう。
 そして、修二にプロポーズされた希は、父親を誤解していたことを知り、父親に会いたいと思って、父親が潜伏している北の町を訪れるという変化をみせ。
 希に恭一が接触する瞬間が逮捕のチャンス、と、希をマークしていた宮嶋刑事も、マークしていることを恭一に知らせ逮捕のチャンスを逃す結果になるにも関わらず、父親・恭一以上にずっとその成長を見守ってきた希に「あなたはここにいるべきじゃない」と告げ、同僚の刑事達に希を修二のもとに送り届けさせ。
そして、15年間逃れ続けてきた恭一は、希が去った後、刑事達の前に姿を現し、逮捕される。「このまま逃げきってしまうと、二度とあの子にあえなくなる」と思った、と。
 そうした全てが、全体が暗く沈んだような落ち着いた画面と、流氷など、人の心情と物語の流れと一体化したような風景の映像と一体となって、静かに、でもその底に熱いものをもって語られていました!

恭一の潜伏している場所が流氷の町だったというのは、流氷に閉ざされた海が明けるような物語の動きや、時効を待つ恭一の心情を代弁するかのように恭一を助け、一緒に船に乗ってきた老漁師・南部庄平(Cast:大滝秀治)が刑事達に「お前達にわかるか!」と、流氷が去り海が明けるのをじっと待ち続ける漁師の気持ちを語るシーンなどから、どうしてもここでなければ! という必然性のある設定。
物語と場所が、不可分一体でした。

物語の鍵を握る希を演じる岡本綾さんの演技が、いかにも“けなげ”“可愛い”という感じのものでなく、最初は冷たく見えるぐらい凛としたものだったことも、そんな彼女を“見守ってきた子供”として大切にする大人達の思いを深いものに感じさせて、よかったと思います。
父親の潜伏する町を歩く希が口ずさむ『森のくまさん』を聞いて、恭一がはっとして幼い頃の希の写真と見比べるシーンは、忘れられないものになりそうです。

『本気!』シリーズでとても温かく天野さん九くんを撮ってくださった村田監督の素晴らしい作品が観られたこと、とてもうれしかったです!


(ゲストブック書き込み:2002年3月17日)


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