きらら浮世伝

天野さん御共演者様…ではないのですが:木村多江さん
(セーラームーンミュージカル“SuperS”)

 2003年8月11日(月)の夜は、天野さんのセラミュ先輩・木村多江さん御出演の劇団扉座第30回記念公演『きらら浮世伝』を観てきました。
 生で多江さんの演技を観るのは、セラミュ1995年夏『SuperS〜夢戦士・愛・永遠に…〜』1996年春の『SuperS[改訂版]〜夢戦士・愛・永遠に…サターン復活編〜』以来なので、7年ぶりぐらい。
 その間に、天野さんと出会うことになった『かぐや島伝説』や、天野さん初登場のFAN感謝イベントからコンプリートできたほどセラミュに引き込んでくれた幾つもの公演があったこと、その全部のはじまりが、初セラミュだった1995年夏公演、多江さんが出演されていた公演だったことを思うと、今回の『きらら浮世伝』を見ていて感極まるシーンでも、より感情が高まりました。
(セラミュつながりといえば、『きらら浮世伝』の衣裳は、セラミュの衣裳の木鋪ミヤコさん。セラミュ2003年夏公演のパンフによると、13年間扉座公演の衣裳担当をされているそうです。)
 そういうことを抜きにしても、『きらら浮世伝』という作品、その中での多江さん、大感動でした。期待以上。
(4列3番[前から4番目、下手の端近く]という、多江さんの表情がよく見える席で観られたのも大ラッキー!)

 『きらら浮世伝』(1998年初演)は、歌麿、北斎、写楽らを送り出した江戸文化爛漫の頃のプロデューサー・蔦屋重三郎を中心とした物語。
 第一幕は、貸本屋だった蔦重が後に歌麿となる勇助と出会い育て、苦労して錦絵発行の株を手に入れて「歌麿」を世に出す物語と、少女の頃吉原に売られてきたお篠が、売られてきた日に蔦重と出会い、その後蔦重を慕い続け、そして蔦重が歌麿に一流の絵を描かせる修行にと、歌麿のためにお篠を買った後、自らの意思で武士の妾としての身請け話を受けて吉原を出て行くまでの物語。
 第2幕は、寛政の改革による弾圧で、洒落本や錦絵が発禁となる中、その弾圧の隙間を縫うように蔦重達が「写楽」を世に送り出す様と、その「写楽」さえも弾圧されていくなかでの、アーティスト達の苦悩を描いた物語。

 多江さんが演じたのは、ヒロインのお篠(吉原にいる間は「篠竹太夫」)。
 蔦重を慕うピュアな気持ち、そうした気持ちを損なわず、自らの置かれた境遇を精一杯生きるしなやかさ、そして節目節目で毅然とした姿を見せる強さ、と、見ているだけで気持ちがきれいになりそうな、そんな清冽なヒロインでした。
 もう多江さんの出ているシーン、全て見せ場という感じで釘付け。
 たとえば、自分に抱かれようとするのも蔦重のためだろう、蔦重のことだけ考えていようと思っているんだろう、という勇助に対して、蔦重のためというのは本当、でも、蔦重のことだけ考えていようとしてもそれができない、そうしようと思っていても、身体を重ねている相手のほうを愛しく思ってしまう瞬間がある、そんな私の心の中には何が住んでいるのか、私の顔に隠れている心の底には何が見えるのか、と問いかけるところなどは、お篠の情熱と、哀しさと、なんともいえない艶やかさがほとばしっていて、迫力。

 でも、やはり多江さんらしいお篠が際立っていたのは、お篠が凛とした決意を見せるシーンだったと思います。
 自ら道を選んで吉原を出る日、これから自分の目は涙を流すものではなく、広い世の中のものをありのままに見るためのものになる、地面に根を張る花や、自由に空を飛ぶ鳥を見るのだ、と、宣言するシーン。
 幕府の弾圧にあって、身代の半分を奪われ、仲間の戯作者達が次々に筆を折られ、歌麿も描けなくなるという状況にうちひしがれた蔦重が、今は弾圧側の奉行・初鹿野の妾になっているお篠に会いにやってくると、弱い者同士が慰めあったって傷はふさがらない、誰もがひとりっきりな人間は、ひとりっきりで何とかして生きていくしかない、あなたには意地はないのか、もう二度とここには来ないで、と突き放すシーン。
 そういうときの多江さん、姿も、声も、とにかく凛として美しく、人間って、すごい、とまで思わせてくれました。
 そういうシーンがあったからこそ、ラストシーンで、写楽の絵は持っててくれてるか、と蔦重が問うたのに対し、全部持っていて大好きですよ、こっけいで、美しくて、でも哀しい、ああこれが人間だなって…としみじみと語るところ(このシーンも、心に残る情感が。)が、生きているような気がします。

 生で観る多江さん、映像作品で観る以上に存在感があって、きれいでした。
 そして声が、ピュアなお篠を演じているせいか、少女のような若々しさ! よく通る澄んだ声、舞台で映えてました。
(返す返すも、多江さんがポーシャ役を演じられた、グローブ座カンパニー公演の『ヴェニスの商人』を観なかったことが悔やまれます…そのちょっと前にグローブ座での『蜘蛛の巣』を観たときにもらったチラシで、公演の存在は知っていたのに!)

 パンフを見ると、作・演出の横内謙介氏の、木村多江さんの作品を見たことがなかったけれど、フジテレビの山田良明プロデューサーの「絶対お奨め、彼女にいい舞台を踏んでもらいたいと思っている人が大勢いる。そんな女優さんですよ」という言葉を信じたら、信じて良かった、というコメントが見られます(「美しいのは一目見て、芝居が上手いのは本読みですぐ分かったけど、稽古を重ねる度に、一人で生きるお篠の気丈と孤独が、哀しさを増して滲み出してくる。切ないね。こういう女が、歌麿の絵の中に確かにいる、と思わない?」というコメントもいいなあ、と)。
 いいお仕事をされていると、そういう人のつながりで、世界が広がっていくものなんだなあ、と、改めて感じました。

(ゲストブック書き込み:2003年8月12日)



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