16th July, 2010  
美しい世界の中心に。
『デビルマン -不動を待ちながら-』開幕
 2010年7月16日、『デビルマン -不動を待ちながら-』初日。
 【じんのひろあきカリガリスタジオ:デビルマン -不動を待ちながら-(初演脚本)】を予め読んで、稽古場の様子を伝えて下さる【山田とゐち (gripper_stage) on Twitter】で天野さん雨竜ハジメのいいシーンをやっているとの実況が入るたびにどきどきしていたもので、“いよいよ!”感がものすごく!!!
 公式サイトの“全7公演セット”で先行発売開始日に購入したため、席は千秋楽以外は最前列。
 冒頭シーン等、美しい演出の全体像をきちんと視界におさめる機会がなかったのはちょっと残念ですが、それでも超おっけー! と思うぐらい、間近で見る天野さん雨竜先生の表情はうつくしく、セット販売に大感謝でした!

 なお、今回の上演の大筋やほとんどのセリフは、【じんのひろあきカリガリスタジオ:デビルマン -不動を待ちながら-(初演脚本)】や、劇場の物販で販売していた2002年版台本と共通していて、役名の変更と、若干のシーンの加除(ラストには、天野さん雨竜先生の名場面が!)があるという感じ。
 【デビルマン-不動を待ちながら- の部屋:登場人物】に、初演脚本・2002年版脚本との役名対応をつけた人物紹介をUPしてありますので、参考になれば。

【“映画のような”!! オープニング】
 舞台は、舞台の上がうっすらと透けて見える薄い幕が降りている状態で、音楽が鳴りはじめるところからスタート。
 それが静かになり。
 上手側・下手側両方の、客席センターブロックと再度ブロックの間の通路に縦一列に並んでいたアンサンブル(Bチームキャストさんも含む)が、一斉に「ワーッ!」と、大声をあげ!

 上手側の舞台に上がる階段に、転がるように躍り出てくるTシャツ姿の青年は、おびえながら追われている様子。
 その彼を追うように、武器を持った黒装束の人々が、客席通路から舞台にのぼり、袖に入っていき。

 そして薄幕の向こうでは、段ボールを持って逃げる数人。
 後でわかる(…あらかじめストーリーを知っていないと、わかるのは、観劇2回目にこのシーンを観てからかも…)のですが、これは、兼崎さん大郷リョウ達、通称“コンビニチーム”がコンビニを襲って、食料を強奪し、逃げている状況の表現。

 舞台の奥からもライトが当てられ、その状況は、影絵のように薄い幕に、巨大化されて映し出され。
 続いて、さらに、誰かを追っている武器を持った人々のシルエット。
 さらに、悪魔を象徴しているのか、翼を広げる生き物のようなシルエット。

 そういう合間に、『デビルマン -不動を待ちながら-』のロゴが、スクリーンに映し出され。

 そして、追われていたTシャツの青年が、薄幕の向こうに現れ。
 逃げまどっていた彼は、ついに棒を持った一段に取り囲まれ。
 「俺は違う!」
 その絶叫も聞き入れられず、棒を持った一団に、激しく打ち据えられる青年。

 青年が抵抗できなくなった頃、舞台上の階段の上から、屈強な肉体に完全武装という趣の重装備をまとった、笠原さん演じる兵士…“悪魔狩り”が現れ。
 銃を構えると、数発、青年に発砲。
 銃弾を受けた青年の身体は飛び跳ねるような動きをみせたあと、動かなくなり、地面に転がり。

 誰もいなくなった舞台の上、笠原さん“悪魔狩り”は、青年の死体の両足を縛ると、縛ったロープを引いてその身体をひきずって去っていく…

 …というのが、劇場での場当たりを御覧になったキャストさん達もブログで“映画みたい!”と感動されていた、この舞台のオープニング。

 このシーンではとにかく、笠原竜司さん(アクション稽古の指導もしてくださった、JAC御出身の、とにかくすごい肉体の主!)の、重装備の上からでも筋肉の存在がわかるような、圧倒的な屈強オーラを放つ存在感が!!
 その後の物語で“悪魔におびえて襲ってくる近所の人ならともかく、悪魔狩りには勝てない”という話が何度も出てくるのですが、その“悪魔狩りの圧倒的な強さ”を冒頭から強烈に印象ける、あざやかなオープニング!!

【テレ東、来ず! 中継される牧村邸】
 ダークでバイオレンス全開なオープニングの後は、その生死を賭けた追いつ追われつの続きかと思いきや、遊びの鬼ごっこだった…という、お気楽な大学生トリオ(武田さんヤマト・田中さんアツシ・江前さんジュンヤ)のシーン。

 舞台セットは、上部が割れたようにキザギザに切られたコンクリートの壁2面(窓のある方の面は、手前に傾斜)を組み合わせた構造。
 ひとつの面には2階のドアがついて、そこから階段が下にのびていて、もうひとつの面には、破れたカーテンがかかった窓があり手前にはテレビ。
 1階部分は、一番下は低めの椅子の高さぐらい、次の段はそれよりやや低い段差をつけて手前から奥に分かれていて、登場人物が座るシーンに活かされ。

 牧村邸は現在、悪魔の巣窟として中継されている、ということで、清水さんエリカが「TBS、NHK、日テレ、テレ朝!」と、現在中継車を派遣して牧村邸を取り囲んでいるテレビ局の名前を呼びあげ。

 …初演テキストで「12チャンネル、来たぞ」と挙げられている、テレ東が来ず!!!
 (兼崎さんリョウのセリフの「中継車、来たぞ」が、それに相当する台詞だと思うのですが…)
 他局が一斉に報道特番を組むような大事件が起きても、普通に通常放送を流して意外な高視聴率を得たりする“テレ東伝説”のテレビ東京が中継しにくるなんて(テレ東が来たことで「これで全部揃ったな」となっているところをみると、やっぱり最後だったようですが【笑】】)、ほんとに天地がひっくり返るような大事件なんだ…という感じだったのに、今回の舞台では、テレ東来ないんだ…と思う一方で、テレ東はやっぱりそうでなくっちゃ! と思ったり!(他局が全部牧村邸を中継しているときに、何を放映しているのか、興味津々です!)

【独特なセリフ回し。兼崎さんリョウ】
 2階から登場する兼崎さんリョウですが、最初セリフを聞いたときは、言葉を音節ごとにを短く切って弾ませる、スタッカートをつけたようなセリフ回しが独特だなあと!
 後で登場する天野さん雨竜先生も、最初はちょっとその傾向があったので、演出家さんからそういう御指導があったのかな…と。
 ただし、天野さん雨竜先生の場合は比較的すぐその特徴は消えて、普通のセリフ回しになったものの、兼崎さんリョウは、武田さんヤマトが傷口を縫った後も、生きるために襲ってくる相手を殺すかと皆に迫るあたりでも…と、かなり後のほうまでスタッカート口調が登場。
 なんとなく、戦闘がらみの話をしているときにそういう口調が出るような気もするので、今後観る回で(覚えていたら)要考察(でも、すぐに慣れて、そんな分析は忘れてしまいそうな気がします…)。

【可愛い! フォンチーさん】
 その後、2階から登場するフォンチーさんシグレ…
 姿も声も、可愛い!!!!!

 セラミュでは、可愛い女の子満載ですが、この時点では舞台の上にはサバサバ系の女子が多かったので、フォンチーさん登場のときになんとなく“ああ、セラミュ気分…”と、感じました
(役名が、セラミュの主人公“月野うさぎ”ちゃんと同じ苗字の“月野シグレ”だからかも!)

 セラミュといえば、フォンチーさんは、天野さん初舞台のセラミュ『かぐや島伝説』のちびうさより年下、3匹の子猫ちゃんのフック役の池内菜々美さん(3匹の子猫ちゃんの、年齢では真ん中)と同い年。
 …そんな、気が遠くなりそうなほど若くて可愛いフォンチーさんと、この『デビルマン』で描かれるようなせつない関係を天野さんが演じられるしあわせ、物語が進むにつれて、きゅんきゅんと!!

【美しい腕。天野さん雨竜ハジメ先生、登場】
 登場の前から、既に登場している人物達から「リーダーは?」と探されていた、天野さん雨竜ハジメ先生。
 谷口さんヒトミを従え、満を持して、2階から登場!
 淡い水色の涼しげなスーツ型ジャケットに、白地にブルーの細いラインで間隔の広い格子の襟つきシャツ、生成りのボトムと、涼しげで爽やか、知的な印象の服装で登場。
 「お疲れ様です」という仲間達に、きびきびと「お疲れ」と答えながら階段を下りてくるところは、まさに“リーダー”の風格。

 主浜さん矢島サキと、新森さん荒野バクが作っていた火炎瓶は、天野さん雨竜先生が作り方を指示して作ったもの。
 「火炎瓶だよ! 俺だって作ったことないよ! 作っただけで捕まるんだからさ!」あたりは、テンポのよいスタッカート口調で、あたかもこの緊迫した状況を楽しんでいるかのような笑顔つき。
 兼崎さんリョウの「女子高で火炎瓶の作り方教えてたわけじゃないだろう!」も、なんとなくツボ(笑)。
 ここで、天野さん雨竜先生に火炎瓶の作り方を教えた(酔っぱらったときに自慢話を繰り返した)、学生運動をやっていた家族が、初演脚本では“十離れた兄”だったのが、“親父”になっているのが、時の流れ。

 火炎瓶を入れたコーラ瓶ケースの傍らに片膝を突いてしゃがみこんで火炎瓶の出来をチェックしていた天野さん雨竜先生、立ちあがって腰骨のあたりに手をあてると、袖口を折り返したジャケットの袖から出る腕に、筋肉のかたちが美しく浮き出しているのが見え。
 連日のハードな稽古に鍛え上げられた身体の一部に、胸打たれた瞬間。

 兼崎さんリョウは後々までスタッカート口調が聞かれたのに対し、天野さん雨竜先生の口調は、外に出て行こうとして怪我をして戻ってきた大学生達がいったん退場した頃には、すっかり落ち着き。、
 そして後述の、女性達にかける、甘く優しい声が!!

【甘く優しい声も。天野さん雨竜先生と女性達】
 今回の『デビルマン -不動を待ちながら-』は、500人キャパとそう小さくない劇場ながら、マイクなし。
 キャストさん達はかなり声を張らなければならず、大変そう。
 そんな状況で、天野さん雨竜先生、大きな声の張りのある響きも魅力的でしたが、甘く優しい声も健在!

 暴徒に襲われていたマチコを助けるために、ノコギリでつけられ、縫い合わせることもできず、止まらない出血のために命を少しずつ、少しずつ削られている看護師・植木ユカリ。
 その園田さんユカリの傷を心配する天野さん雨竜先生の声、火炎瓶のことを話している声がキビキビと力強かっただけに、その優しさはちょっとどきっとするほど!
 声がちょっと細いかな、というキャストさんもいらっしゃるなか、園田さんユカリはしっかりと安定した声の響きで、天野さん雨竜先生とのやりとりには、心地よい安心感。

 そして、2階から妊婦・黛さんマチコが登場して、バリケードを作るのに参加できなかったからせめて包帯作りを…と言うのを聞いた天野さん雨竜先生の「妊婦にタンスを運ばせるわけにはいかないだろう」は、優しい声に加えて、にっこにこの笑顔!
 【First Love:第11話】の結婚式シーンで「(お腹の子が)動いた!」とうれしそうな天野さん二岡くん、【たっぷり亭のひとびと イケメンチ!】ラストで子供ができたことを告げられて「やったーっ!!!」な天野さん達也くん、【デザイナー】でありさとの結婚を決めた後、ありさを優しく気遣う天野さん明くん…等、天野さんのこれまでの御出演作品&演じられた役には、“子供を授かることってなんてしあわせなことなんだろう”と思わせてくれるようなシーンがいろいろ。その一端が、その笑顔に表れたような!

【コミカルバイオレンス! 兼崎さんリョウのペットボトル・ハリセン】
 天野さん雨竜先生がそんな風に女性達に優しく接している一方で、兼崎さんリョウは男性達に、ペットボトルをハリセンのように使ったアクション連発!
 傷を縫ったばかりの武田さんを“話聞けよ!”とバコーン!、兼崎さんリョウの言うことをリピートする新森さんバクを“真似すんなよ!”とバコーン!!
 身長186dm、しかもがっちりした兼崎さんが上段から振りおろすペットボトル、かなりの威力! 迫力のバイオレンス!
 でもコミカル(笑)。

【既視感。“なんで………んだよ!”】
 軽率に外に出て行こうとしたことで、居心地が悪くなってしまった男子大学生トリオ。
 そのなかでも、結局出て行かなかった江前さんジュンヤと、あとの2人がもめ、お前は外の現実がわかってない! と、2人が江前さんジュンヤを組み伏せ。
 そして武田さんヤマトと田中さんアツシ、江前さんジュンヤのズボンをはぎかけ、お尻の割れ目まで見える事態に!!

 そこに、谷口さん北浦ヒトミを伴って、下手袖から登場する天野さん雨竜先生。
 その第一声は。
 「なんでケツ出してんだよ!!」
 …このセリフ、舞台『インディゴの夜』で、モイチの財布がなくなった犯人探しの過程でアレックスとモサクがパンツ一丁になっていたところに帰ってきた貴城さんらんこくん(男装Version)のセリフ「お前ら、なんで裸なんだよ!」が、あざやかによみがえるような!
 天野さん雨竜先生、さらに声を荒らげてもう一度「なんでケツ出してんだよ!!!」
 …なぜそこまで怒る!? というぐらいの怒りよう(笑)。

 このとき天野さん雨竜先生は、上着を脱いで登場。
 さわやかなシャツの半袖から、きれいな腕が見え。

【優しい声の宝庫。長谷部さん牧村美樹と天野さん雨竜先生】
 天野さん雨竜先生が、悪魔ではない自分達と、世界中の人々が悪魔だと思っている自分達との関係について説いたりしているうちに、二階から、長谷部牧村美樹さん登場。
 彼女こそが、この牧村邸の主で、ここに集まった人々が不動明から“守るように”と指示を受けたヒロイン。
 その美樹が登場したときの天野さん雨竜先生の笑顔は、それはもうきれい!

 「もう落ち着きましたか」と穏やかにかける声といい、天野さん雨竜先生、美樹には特に丁寧な態度。
 「そんな状態(=2、3人のグループでかばい合って逃げまわっていた状態)に比べたら、ここはまだ安心できる場所ですよ」、「あとは、不動さんさえ帰ってくれば」と、美樹の家である牧村邸にも、美樹が待つ美樹の想い人・不動明に対しても、敬意のこもった言葉で語る天野さん雨竜先生。
 その穏やかで優しい声は、激しく声を張り上げて言い争ったり、嘆いたり、号泣したりといったシーンがあふれるこの劇のなかで、とても落ち着く存在。

 そんな穏やかな声と同様にやわらかい、でも、違ったニュアンスの声も、美樹と向き合っているときに。
 美樹の小学生の弟・タレちゃんが、高熱を出しての眠りから覚めて、夢を見た、と言っていた、と美樹が言うのを聞いたとき。
 「ゆめ?」
 それまでの、美樹への敬意のこもった丁重な声とはちょっと違う、不意を突かれたような、無防備なやわらかさの声。
 その“夢”が、皆が『最後の晩餐』のように皆が横一列に並んで食事を摂っているというものだった、と聞いたときの沈んだ表情を見ると、雨竜先生の表情を沈ませた不吉な予感が、やわらかな心にどれだけ深く刺さったか…と思わせる、かなしいやわらかさ。

 美樹の「不動さんはまだですか」の問いに「待つんです」と答える声も、甘い響きをたたえた、優しい声。
 他のシーンでの厳しい「不動さんを待つんだ!」と同じ内容の言葉が、こんなにも優しく口にされることがあるんだ、と。

【カップ麺の情景 《大学生編》】
 天野さん雨竜先生の「食えるときに食っておいたほうがいいだろう」という判断のもと、配給されたカップめん(実は、兼崎さんリョウたちが、コンビニで、抵抗するコンビニ店員を殺して強奪したもの)。
 大学生達がカップめんを選んでいるとき、人気があると話題にされる麺にも、時代の流れが。
 【デビルマン〜不動を待ちながら〜稽古場ブログ:2010年7月2日_カップラ (主浜はるみ)】で、『デビルマン』本来の脚本(【じんのひろあきカリガリスタジオ:デビルマン -不動を待ちながら-(初演脚本)】)にある台詞「ラ王が大人気、やっぱり麺が違う」の中の“ラ王”は最早存在しない…と語られていて、何に置きかえられるのか注目だった“ラ王”は、“麺達”(“麺の達人”)に。
 「麺が立ってるんだよなー」「立ってねーよ!」といった会話とともに(笑)。

【フォロー万全! カップめんの情景《リョウ&バク編》】
  清水さんエリカに配られたものが気に入らなくて、交換しようと2階から降りてきた兼崎さんリョウ。
 段ボールのなかのカップめんをガサガサ探って「オレ、これにしよう」と手にしたのは、ミニサイズのカップヌードル(しょうゆ味)。
 …かなりビッグサイズな兼崎さんリョウが、なぜそんなミニサイズを…?

 と思ったら、いったんはけて、カップにお湯を入れて兼崎さんリョウと新森さんバクが上手から再登場し、階段をのぼって2階に入っていくシーンで、新森さんバクがしっかり「量足りるんですか?」「体大きいのに、意外と少食ですね」と、誰もが思うことをしっかり拾い。

 …というようなことで感心していたら、この後の回では、このシーン、さまざまに展開するアドリブの宝庫に!
 お笑いシーンがあっても笑っていいのかわかんなくなるほどシリアスな『デビルマン』の舞台で、貴重なシーン!

【“戦う”が似合う声。下川みくにさんミナモ】
 長谷部さん美樹と二人きり、芽生えはじめた恋のこと、恋に傷ついたりしながら生きたいという切実な想いについて語り、涙する下川さんミナモ。
 アニメソングも歌っていらっしゃる下川さん、セリフもやや高めのクリアな声で、アニメ美少女の声としてすごく親和性のありそうな声。
 そんな下川さんミナモのこのセリフ。
 「私は生きたい・・・だから、襲われたら戦う。でも、それっていつまでつづくのかな・・・ずっと続くんだよ・・・そしたら、ずっと戦うんだよ・・・戦うことに疲れたらその時はさ・・・・」
 “戦う”という、日常の延長で聞いていたらリアリティがなく聞こえるか、殺す殺されるといった戦闘ではなく、“勝負”に近い日常の内容を指すように聞こえてしまいそうな言葉が、生死を賭けた“戦う”がテーマとなっていることが多いアニメに登場しそうな声で聞くと、まさに“戦闘”のことなんだ、ということが、妙にすっと、感覚的に入ってきて。
 …それは、この作品が“テレビに映っている牧村邸がどうしてもこの家のことに思えない”と話す大学生達のシーン等で批判しようとしている現実に対するリアル感覚のなさそのものなのかもしれないと思いつつ。
 でも、現実では人の生死を自分に関わりのあることとして実感したり、深く考えたりすることがない人も、架空の登場人物の生死についてはものすごく入れ込んで、感情を揺さぶられたりした体験を持っていたりするという“現実”があるのなら、その体験をテコに、そこで“欠けていること”が批判されているものを取り戻す突破口を作ることはできないものか…ということも、考えたり。

【大人の男の“逃げ”。天野さん雨竜先生とフォンチーさんシグレ】
 47度の熱が出た、と訴えるときにフォンチーさんシグレが天野さん雨竜先生に向かって口にした「先生」。
 体中の血が沸き立つほどの萌え!!!

 【じんのひろあきカリガリスタジオ:デビルマン -不動を待ちながら-(初演脚本)】を読んでいた状態で、天野さんが雨竜ハジメ役=初演脚本の北島役を演じると知ったとき、頭の中にはドラマ『高校教師』の主題歌の『ぼくたちの失敗』が鳴ったものの、雨竜先生=北島先生はテキスト上、シグレとの恋愛感情は否定しているので、それは違うんだな…と考え。
 が、実際に舞台を観てみると、フォンチーさんシグレと天野さん雨竜先生の間には、“恋愛関係”よりも深く、激しく、せつない“愛情関係”の嵐がさかまいていて!
 人間から離れるように変化していく、悪魔に乗っ取られた自分の体に不安を覚えたフォンチーさんシグレが、もし自分が人に害をなす悪魔になってしまったらそのときは、先生の手で殺して、と迫ると、やめろよ、俺はそんなつもりじゃなかった、と、その可能性を想像することや、シグレの願いに応えることから、徹底的に逃げる天野さん雨竜先生。
 その姿は、【舞台『となりの守護神』】で、妻のグィネヴィア妃を愛していながら、グィネヴィアやグィネヴィアが想いを寄せているのではと疑っていたランスロットとの関係に決着をつけられないでいた天野さんアーサー王をちょっと思い起こさせる、“大人の男”の“逃げ”。
 そんな、潔くない姿まで、人間味があって魅力的。

【“まもちゃん”のような髪型、衣装、でも大人。11年後の天野さん】
 近所の人たちが襲ってきたら、迷わず彼等を殺す、という宣言を、兼崎さんリョウが全員に求めたことから生じる、“生きるか死ぬか、殺すか殺されるか”の論争。
 天野さん雨竜先生、美声!

 「俺は殺さない」といって、“殺さない側”のエリアである下手、階段の傍らに置いてある箱の上に腰かける天野さん雨竜先生(このときはまた、上着着用)。
 …今回の髪型、天野さんがこれまでに演じて来られたたくさんの役のなかでも、一番【ミュージカル美少女戦士セーラームーン『かぐや島伝説』】【同・改訂版】のまもちゃん(地場衛)に近いかも…と思ったのは、そのシーンを観ているとき。
 衣装も、『かぐや島伝説(春公演)』の天野さんまもちゃんは、フードつきのジャケットという可愛らしい格好だったけれど、他の代の地場衛なら春公演はこんな衣装だったに違いない、という衣装(上着を取ったときは、『かぐや島伝説・改訂版(夏公演)』のまもちゃんそのもの!)。
 そして、お顔立ちもそんなに変わっていない(なんといってもこの次の舞台は、高校生役!)のに(ずっと観ているのであまりわからないということもあるかも…)、天野さん雨竜先生は、すっかり“大人”。
 11年の歳月。

 その、座っていた箱を、二階から降りてきて“殺さない”側に加わった妊婦・黛さんマチコに譲る天野さん雨竜先生。
 このシーンでは、兼崎さんリョウとの激しい対立で、ちょっと怖いような天野さん雨竜先生の、自然な優しさが垣間見えるシーン。
 そのあとの、お腹の子供を堕ろしたくない気持ち、そして、その気持ちを夫に訴えてすぐ、夫が悪魔に変わってしまったことを語るマチコの話を感情移入たっぷりに聞く天野さん雨竜先生の心が、どれほど痛んでいることか…と、いっそう思わせるような、優しさ。
(ちなみに、天野さん雨竜先生がマチコの話に聞き入っている間、ちょっと目を上手側に転じてみると、男子大学生達が、“殺します”と宣言してやっとありついたカップ麺を、するする食べているのを目撃することに。)

 そんな天野さん雨竜先生も、大学生達が揺れているときに言い放つ「不動さんを待つんだ」は、ちょっとドスがきいていて、コワめ。
(長谷部さん美樹への穏やかな「待つんです」とは、大違い!)
 兼崎さんリョウに、どうしても戦う気にならないのか、と問われての「戦ってもいい、戦わなくてもいい、それが正直なところだ」と言った後、「本気で勝てると思ってるのか」とリョウに問う声も、結構ドスがきいていて、かなりコワイ天野さん雨竜先生。

 ちなみに兼崎さんリョウの職業は、初演&2002年版脚本では“テレクラの店長”だったのが、今回は“キャバの店長”。
 WEB上で観られるレビューによると、2006年公演では“出会い系サイトのオーナー”だった模様。
 時代の変化?

【法律違反との比較衡量や如何。シグレが悪魔に取り憑かれた理由】
 自分の生き死にについては「わからん」と、微笑み交じりで言ってた天野さん雨竜先生。
 それが、不動からのテレパシーを受けたシグレの髪が、人ならざる者のそれのように白く変化してからは、その表情から一切の余裕は消え!

 “悪魔にとりつかれてもなお、人の心を失わなかった者”=“デビルマン”であるシグレが「私は・・今はまだ・・・・人間です」と言い、その“今はまだ”の意味が皆に問われるところでの、悩み深そうな雨竜先生の表情、などなど…。

 その序盤に登場する、初演&2002年版脚本からの変更点。

 シグレが何をしていて理性を失い、悪魔に取りつかれることになったのか、と皆に問い糺されるシーン。
 「理性ぐらい失うだろう、こんな状況になったら普通」「もういいだろ」「やめろ、そんな事、言わなくていい」と、必死に言わせまいとする天野さん雨竜先生。
 そんなにも必死に隠そうとしていた、フォンチーさんシグレが悪魔に取り憑かれたときにしていたことは。
 「お酒を飲んでいました」
 フォンチーさんシグレがそれを言ってしまったとき、がっくりとうなだれ、崩れるように座り込んでしまう天野さん雨竜先生。

 …確かに、“20歳未満の飲酒は法律で禁止されています”なので、先生としては自分の生徒が飲酒をしていたというのは隠し通したいことかもしれないけれど、それにしても天野さん雨竜先生の隠そうとする必死さ & シグレが言ってしまった後のがっくりぶりは、ものすごく!

 この“飲酒”、初演&2002年版脚本では“自慰行為”だったところを、今回の上演では改訂されていたもの。
 (2006年上映ではどちらだったか不明)
 自慰行為だったら雨竜先生の必死さも納得、と考えるべきか、飲酒は法律で禁止されているけれど自慰行為は特にそういう禁止はないので、飲酒のほうをより重くとらえるのが正しい、と考えるべきか…
 一応自分、劇中の雨竜先生やシグレと同世代人だと思うのですが、現代の社会ではどっち寄りなのか、よくわからないことにボウゼン。

 いずれにせよ、雨竜先生が教えていたシグレの学校は、『BE-BOP-HIGHSCHOOL』で天野さんヒロシくんや三国一夫さんトオルくんが戦っていた相手の高校のような、先生の御指導がタイヘンそうな学校ではなさそうです…(生徒の飲酒で先生があんなにあわてたりするところからしても、殺すつもりがないのに殺す側にいるかのようにリーダーとして振る舞っていた雨竜先生にだまされた、というリョウへの雨竜先生の“皆はまるで生徒のように、言う事を聞く”という言葉からしても…)。

【感情の嵐のただなかに。シグレ変化後の天野さん雨竜先生】
 兼崎さんリョウが、親戚の結婚式で、新婦の父が悪魔に変貌した瞬間のことを語るシーン。
 他の皆がリョウに視線を集めるなか、じっとシグレをみつめる天野さん雨竜先生。

 先生なら自分を殺してくれる、殺してもらっていい、と語るシグレに「俺は殺せない」と拒む天野さん雨竜先生。
 すごい心の震えが伝わってくるような!

 シグレを殺そうか、と言いだした主浜さんサキに、「おまえが、こいつを殺したら、俺がおまえを殺す」と返した天野さん雨竜先生に、なおも「先生・・殺してよ」と言い募るフォンチーさんシグレさんを怒鳴りつける天野さん雨竜先生の「もう黙ってろ!」
 続くフォンチーさんシグレの、泣き混じりの「先生恐いよ」、“私が私でなくなるのが恐いんだよ”の意味なのに、そのセリフにたどりつく前は、雨竜先生がコワイのかと思ってしまうほどの迫力!

 主浜さんサキが実際にナイフを出してまずは雨竜先生に、次に雨竜先生をかばうように前に出たシグレに突きつけたものの、結局殺せなかったとき、もう泣きそうな天野さん雨竜先生。

 そして、フォンチーさんシグレが「私は誰も殺したくない。生まれて死ぬまでの間に、誰かを殺したりしたくない」と訴えると、がっくりと座り込む天野さん雨竜先生。

 シグレの髪が白く変化してからの天野さん雨竜先生は、それまでの事態を一歩引いて眺めているような様子から一変、感情の嵐のただなかにあって、激しく翻弄され続け。
 全身のしぐさとたたずまい、あざやかに変わる顔の表情、感情の震えが伝わるような声が、それはもう。

 公演後半は、そんな雨竜先生をみつめることにどんどん集中してしまったので、ここではこれくらいで…。

【西海岸へ行くバス。シグレを失った天野さん雨竜先生】
 雨竜先生に殺してもらえないと思いつめたシグレが、停電の隙に、牧村邸の外に出て、群衆にバラバラにされてしまったと知った天野さん雨竜先生。
 両肘両膝を地につけてうずくまった、絶望を絵に描いたような姿。

 そこからふらふらと立ちあがっての「・・・俺も、殺す方に入れてくれ」は、力ないのに、なんとも重い響き。

 そして、下川さんミナモとの「彼女だったんでしょう」「違う」のやりとりを経て、雨竜先生の初演テキストで最も印象的なセリフのひとつ“西海岸へ向かうバス”の話に。

 その最後の“あいつは西海岸へ行くバスだった”。
 テキストで読んでいたときは、ここまでのセリフは、虚脱状態のように淡々と語られるのかな、と漠然とイメージしていたところ…
 天野さん雨竜先生は「あいつは! 西海岸へ行く、バスだった…!」と、叫びながら号泣に突入していく、感情を爆発させるような強さで!
 この天野さん雨竜先生の叫びは、観終わってからずっとずっと、心に残って、折に触れてよみがえるように…
【最初と最後の変化。大学生達、そして「よろしくお願いします!」】
 恋人同士の思い出を振り返る、亜美からの、突入を告げる別れのメールを、武田さんヤマトが読み上げるシーン。
 最初は、これまでの大学生達のカラーそのままに、コミカルさを残した口調。
 それが、だんだんシリアスになっていくことで、物語は一気にクライマックスへとモードチェンジ。

 そして『デビルマン -不動を待ちながら-』で最も涙が出やすいシーンかもしれないところに。
 悪魔特捜隊の突入を前に、これまで名前を呼び合うことがなかった人々が、“大学生”が名前を名乗ったことをきっかけに、次々に名乗り「よろしくお願いします!」と頭を下げていくシーン。
 天野さん雨竜先生は、最後に(初演脚本では美樹が最後なのに、今回は天野さん雨竜先生が最後に!)「雨竜ハジメです。じゃ…よろしくお願いします!」と、ひときわ力強く、深々と頭を下げ。

【美しい世界の中心に。ラストシーン】
 最後には、何人かの人物は通っていくものの、天野さん雨竜先生と兼崎さんリョウとの二人きり。

 「まだ・・・死ぬ気か?」という兼崎さんリョウに答えての天野さん雨竜先生の「生き延びたい」という言葉、それを実現するためにしなければならない殺戮等々には無縁のように、甘い響きの声。
 そこから、シグレを人として弔いたいという願いを語る天野さん雨竜先生には、ほんとうに生き延びてほしい…と思わせる、理屈抜きに人としての魅力を放つ声。

 リョウからもらったタバコを手にして座る、天野さん雨竜先生。
 タバコは、ただぼんやりと手にしている、という感じで、立てたバットで身を支えるように座る姿、疲れ果てて今すぐ倒れてもおかしくなさそうな憔悴ぶりなのに、うつくしく。
 そして、持っているだけかと思われたタバコを吸うしぐさがまた、姿よく。
 (若い頃の作品の、手慣れたタバコの吸い方が、歳月を経てぐっと渋くなった感じで!)
 タバコを消す後ろ姿にも、味わい深い情感が。

 そして、本を手に取って箱の上に腰かけ。
 この『デビルマン-不動を待ちながら-』の最後のセリフとなる言葉を…
 「ごらん、世界はこんなにも美しい」

 そして舞台は薄暗くなり、牧村邸に籠城していた人物たちが、武器を手に構えるシーン。
 冒頭では、どこの誰ともわからない人物達の動きだった群像劇が、今度ははっきりと、一人一人の名前がわかる情景に。
 舞台の中央で、背中あわせになり、二人で一体のように構える、兼崎さんリョウと天野さん雨竜先生。
 そして現れる、笠原さん悪魔特捜隊員。
 悪魔特捜隊員の銃が構えられ、兼崎さんリョウに向けられ───

 ここで幕切れ。

【W主演のように。カーテンコール】
 感動的な『デビルマン-不動を待ちながら-』、でもカーテンコールはかなりあっさりめ。
 その最後には、兼崎さんリョウと天野さん雨竜先生が二人だけ舞台に残って、観客に礼。
 この作品は、兼崎さん主演のはずですが、天野さんの次の舞台、今度は兼崎さんとW主演になる『劇団VitaminX 〜Legend of Vitamin〜』のように、W主演かのような扱いで、感激でした!!